病態生化学研究室
教員紹介
氏名・職位 高橋 吉孝 TAKAHASHI, Yoshitaka 教授
【専門分野】
病態生化学、脂質生化学
【所属学会など】
日本生化学会、日本脂質生化学会、日本栄養・食糧学会
主な研究テーマ
〈アラキドン酸代謝酵素ならびにその生成物の病態生化学的研究〉
- 非アルコール性脂肪性肝炎の病態解明
- 抗ロイコトリエンモノクローナル抗体の構造機能連関の解明に向けた基礎研究
- アラキドン酸代謝酵素を標的とする生活習慣病予防に向けた機能性食品開発
一般の方へ
こんな研究をしています
脂質というと、高カロリーの栄養素というイメージがあると思いますが、脂質の中にはこのように単なるエネルギー源となるもの以外に、栄養素として、体の機能をさまざまに調節するために働く生理活性物質を作り出す源として、外からの摂取が必要なものがあります。これを必須不飽和脂肪酸と呼びます。
必須不飽和脂肪酸を原料として作られる生理活性物質には、血圧の調節、止血、胃酸分泌の調節、痛覚の伝達、卵胞の成熟や分娩といった体のはたらきに必要なものほか、炎症やがん、アレルギー反応といった疾患の増悪にはたらくものもあります。これら生理活性物質は、必須不飽和脂肪酸に体の中にある酵素がはたらいて作られます。
私たちはこの不飽和脂肪酸にはたらく酵素の作用を解明したり酵素の活性を調節する方法を見出すことによって、生活習慣病などをはじめとするさまざまな疾患の予防や治療に結び付ける研究をしています。たとえば、心筋梗塞や脳梗塞の原因となる動脈硬化と呼ばれる疾患は、悪玉コレステロール(LDL)に含まれる脂肪酸にリポキシゲナーゼとよばれる酵素が働くことでより起こりやすくなることを明らかにしてきました。これを応用して、このリポキシゲナーゼを働きにくくする食品成分をグアバ茶の中に見出し、この食品が動脈硬化の進展を予防することができることを明らかにしています。
また最近、メタボリック症候群が原因で、アルコールを摂取していないのにアルコール性肝炎と類似した肝炎を引き起こす非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)という病気に関わるリポキシゲナーゼを見出し、この疾患の進行の予防につなげる研究を始めています。
受験生・在学生にひとこと
私たちの身体の中では、酵素と呼ばれるたんぱく質により、身体に取り込まれた物質が次々に代謝されていく連鎖反応が起こっています。この反応に不都合が生じると、いろいろな疾患の発症につながります。これを明らかにしていく学問が病態生化学です。管理栄養士は、病気に対し正しい栄養学的アプローチを取ることが求められる仕事ですが、本学の栄養学科はその基礎となる生化学をしっかり学べる教育環境が、非常に充実しているのが特徴です。生化学を専門とする多くの教員から、講義のみならず多くの実験や実習を通じて、高いレベルの生化学的センスを身に付けることができます。
研究者の方へ
研究の概要
細胞膜のリン脂質などから切り出されたアラキドン酸をはじめとする多価不飽和脂肪酸に分子状酸素を添加して過酸化脂質を生成する酵素をリポキシゲナーゼと呼びます。アラキドン酸からプロスタグランジン類を合成するシクロオキシゲナーゼは2分子酸素添加酵素ですが、リポキシゲナーゼの一種と考えられます。アラキドン酸のカルボキシル末端から数えて5番目の炭素に1分子の酸素を添加する5-リポキシゲナーゼは、気管支喘息やアレルギーを引き起こすメディエーターであるロイコトリエンをアラキドン酸から合成する初発反応を触媒します。しかしながら、12-リポキシゲナーゼや15-リポキシゲナーゼの生成物の中に、ロイコトリエンのような特異的受容体に結合して高い生理活性を示す物質があるかどうかはまだ完全に解明されておらず、これらの酵素の病態生理学的意義については不明な点が多いのが現状です。
私たちの研究室では、心筋梗塞や脳梗塞の原因となる動脈硬化の発症に関わる酸化LDLの生成に白血球型12-リポキシゲナーゼが関わることを証明し、本酵素を阻害する機能性食品が動脈硬化の進展を抑制することを動物実験レベルではありますが明らかにして参りました。また近年、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)において線維化の進展に関わる肝星細胞に血小板型12-リポキシゲナーゼが局在していることを見出し、その病態生理学的意義の解明を進めているところです。このほか、抗ロイコトリエンC4モノクローナル抗体の結晶構造解析に基づいてその単鎖抗体の部位特異的変異体を網羅的に作成することにより、抗体の抗原結合部位の構造活性連関を明らかにし、本抗体の気管支喘息への有効性を示したほか、本抗体の肺線維症治療薬としての可能性についても研究を進めています。