現代福祉学科 研究紹介
中村 健太(なかむら けんた)
【こんな研究をしています】
不安定性や不確実性が増大しているといわれて久しい現代社会で、安全がどのような意味合いで考えられているのか、そして国家によって社会の安全がどのように確保されているのかを、フランスの学者であるミシェル・フーコーやロベール・カステルの展開した議論を参照しながら研究しています。
これらの議論を検討し、場合によってはより現代社会を的確に捉えるために内容をアップデートすることで、統治メカニズムとしての安全がいかなるものか、そして不安定な現代社会で生きる個人はどのような特徴をもっているのかを明らかにしようとしています。
検討により、現代社会がフーコーのいう安全メカニズムという統治技法により統治されていることを明らかにしました。安全メカニズムでは、個人ではなく生物種としてのヒトの群れを指す個体群(population)が統治対象となります。
さらに個体群を構成する個人は、カステルのいう超近代的個人に該当します。超近代的個人は、ナルシシズム的に自己実現を求める超過する個人と、自己実現のための資源を持たず、社会の支えもない欠乏する個人に分けられます。こうした個人を個体群というカテゴリーにまとめることで、現代社会は安全を確保しているのです。
こうした理論的観点からの研究に加えて、新型コロナウイルス対策を事例とすることで、実証的側面からも安全についての研究を進めています。とりわけ、フランス政府がどのような科学的根拠に基づいてロックダウンなどの政策を実施してきたのかを、医学者や疫学者といった専門家によって構成される諮問会議の議事録を参照することで分析してきました。
分析を通して、コロナ対策では疫学的知と呼ばれる知的基盤が、重要な役割を果たしていることが明らかになりました。疫学的知は、個人ではなく集団にアプローチすることで疾病の流行や曝露の傾向を把握する疫学に特徴的な知です。そしてこの知は、安全メカニズムと親和的なものです。
加えて、ホームレスや移民といった不安定な状況にある人々と諮問会議が呼ぶ人々への対応も検討しています。ここからは、安全メカニズムだけでは対処しきれない個人の存在が浮き彫りになり、彼らに対しては、手を差し伸べる戦略によって、社会全体への被害拡大を抑止しようとする動きがみえます。
このように、現代社会が安全をいかに確保しているのかを、新たな理論的視座及び最新の事例から検討することが現在の研究内容です。
【受験生・在学生にひとこと】
私たちの暮らす社会は、先の見通せない不透明で不安定なものです。皆さんが大学に入学し、勉強をして卒業し、就職するというルートが確実に保証されているとは限りません。もちろん皆さんの努力次第でどうにかなる部分もありますが、社会というより大きな力が働いた結果、理不尽に自らの思い描く未来を覆さねばならないときもあります。こうした社会という不安定でよくわからないものを理解することは、皆さんの将来に必ず役立つはずです。