2023年6月29日建築学科

学生の声(第2回・前編)

 

テーマ:設計課題の取り組み方や学んだこと

オープンキャンパスや卒業制作展などで、仕上がった建築図面や模型を見る機会は多いと思います。しかし、完成にいたるプロセスや、どのように建築設計を進めているのかを知ることは難しいかもしれません。そこで、今回は2021年入学(インタビュー当時3年生)の橋本七海さんにインタビューをしました。1年生、2年生、3年生の課題を通じて、その都度考えていたことや、学んだこと、また課題にどのように取り組んでいたのかなど、お話をうかがいました。(2023年6月19日、26日に岡北研究室にて)

岡北:橋本さん、こんにちは。今日はよろしくお願いします。少し記憶を辿っていただくことになりますが、課題を進めていたときに、何を考えていたのか、どういう風に設計案をまとめていったのか、そのプロセスについてうかがいたいと思っています。リラックスしてざっくばらんにお聞かせください。

橋本:いいお話ができるかどうかわかりませんが。。。こちらこそよろしくお願いします。

1年生前期

岡北:ではさっそく入学したての1年生前期からお話をうかがいます。前期はいわゆる建築設計の課題はありませんよね。

橋本:そうですね。設計演習に直接的につながる授業といえば、建築表現技法(1年生前期)の授業で、文章から建築空間をイメージしてスケッチするという課題がありました。入学したてで建築についての知識がなかったので、うまくいかなかった記憶があります。頭の中のイメージをスケッチで具現化することの難しさを実感しました。

岡北:うんうん。難しいと思います。建物を建てるという行為は、自分ひとりで完結することがほとんどありません。自分ひとりで考えて、自分ひとりで作り上げるということができません。だから、建築設計は自分が考えていることをいかに表現し、相手に伝えられるかが大事です。

橋本:うまくいかなかったことが少し悔しくて。どうやれば自分が思い描いた建築や空間を表現できるのか、夏休みを使って考えていました。インターネットでさまざまな建築や空間を検索して、自分にとってよい空間だと思うものをひたすらスケッチしていました。向山先生の建築概論で課された有名建築のスケッチも勉強になりました。細かいところまで丁寧に描かないと対象の建物の特徴を理解できないし、相手にも伝わりません。とはいえ一番は自分が対象の建築をしっかり理解するために描いていました。

岡北:1年生の夏休みにそんなことをやっていたのですね!!橋本さんが2年生になってからのことですが、わたしの西洋建築史の授業でのスケッチ課題で、コルドバの大モスクの内部空間を描いたものをすごくよく覚えています。

図版1

橋本さんがスケッチしたコルドバの大モスクの内部写真。かなり低い視点から見上げた迫力のあるスケッチです。イタリア・ルネサンスの画家マンテーニャの構図のようです。

 

図版2

古代ローマの傑作として知られる神殿、ローマのパンテオンの柱頭のスケッチです。コリント式の優雅な感じがよく出ています。

1年生後期

岡北:1年生も後期になると建築設計演習が始まります。まずは「建築設計基礎」という授業で基礎的なことを学びます。これは1年生の後期に「建築設計基礎1、2」として開講されています。「建築設計基礎1」は、ある芸術家を選定して、その芸術家のための小さな展示空間を大学構内に設計するものでした。

橋本:土屋仁応(つちや よしまさ)さんの作品を展示する空間を設計しました。とにかく外観、建築の造形を美しくデザインすることを意識していました。土屋さんの作品は曲線が美しいので、建物のかたちも曲線美を持つ自分好みの形態になるようにスケッチしながら模索していました。
この時は形態的な美しさばかりを追求していましたが、内部空間や敷地の持つ力(周辺環境との関係)についてもっと深く考えるべきだったと後から思いました。この時は鉄筋コンクリート造で設計するという設定がありましたが、コンクリート造の特徴や限界も理解していませんでした。

岡北:確かに建築の構造的な問題や、どんな敷地に設計するのか、あるいは、外から見た造形的な問題だけでなく、内部空間をいかに作るのかなど、いろいろな観点がありますが、この課題に関しては、橋本さんの方針はよいと思いますよ。まずはイメージする造形を表現するための工夫を学ぶという点で。というか、最初の課題でさまざまな問題には答えられません。建築設計、ものづくりの楽しさを体験してもらう課題でもありました。

橋本:曲線を闇雲に使うのではなくて、曲線の魅力や美しさを他者に伝えるための工夫や、何のための建物なのかなど、図面や模型を通して自分の考えを丁寧に伝えることの大事さを学んだ気がします。

岡北:なるほど。自分のアイデアを伝えるために試行錯誤する様子や、たくさんスケッチしたり、橋本さんの悩むプロセスが表れていますね。

図版3 図版4

曲線をいろいろと組み合わせて空間を作るために、試行錯誤している様子がうかがえるスケッチです。

岡北:その課題に続いたのは、大学のキャンパス内で自由に敷地を選んで、その中に9mキューブ、6mキューブ、3mキューブの格子の配置を考えて、休憩スペースを作るというものでした(建築設計基礎2)

橋本:条件がすごく簡単で、自由度が高い課題だったので、どうやって始めるか戸惑いました。模型を作りながら考えることを先生から推奨され、建築設計の一つの方法としての模型の役割を学んだのが、この課題での大きなポイントでした。それを受け止めて、模型を作りながら敷地の使い方やキューブ同士のつながりを考えました。
ただこの課題を通して体感したのは、模型は自分が何をどう設計するのかを理解し、詰めていくためにはよいメディアだと思う一方で、相手に自分の設計をよりよく伝えるためには、たくさんのパース(建築の透視図)や絵を描いた方が自分にはあっているということです。精巧な模型を作ることができれば話は別かもしれませんが、私は少し模型制作が苦手としていることもその原因だと思います。

岡北:設計のアイデアをまとめたり、草案から完成まで進めていく方法は人それぞれですからね。それぞれの得意な表現方法を見つけて、それを極めていく(有効に活用する)ことがとても大事だと思います。

図版5 図版6

大小のキューブの組み合わせをいろいろと考えていますね。いい感じに手が動いているのがわかります。

お話をうかがって岡北のコメント
橋本さんは主に建築のスケッチやパースを通して、自分のアイデアをかたちにし、人に伝えていく方法を磨いていったようです。確かに学生の中には、橋本さんのように絵が上手い人、さまざまな大小のキューブの組み合わせをいろいろと考えていますね。いい感じに手が動いているのがわかります。
素材を組み合わせて生き生きとした模型を作る人、コンピュータ操作に習熟し、CADをバリバリ使いこなす人などさまざまです。どの方法もある程度は慣れて使えるようになる必要はありますが、絵を描くのか、模型を作るのか、コンピューターを駆使するのか、どの方法がベストだということはありません。

2年生前期

岡北:2年生になると、課題の内容や条件が少しずつ難しく、複雑になっていきます。授業の科目名も「基礎」が取れて、「建築設計」となります。「建築設計」は「1~6」まであります。すべて必修の授業で、2年生の前期から3年生の前期にかけて開講されます。「建築設計」では、基本的には1から6に向けて内容がより高度になり、設計する建物も複雑化します。それぞれの演習では課題文が提示され、そこに建てるべき建物の内容や条件、敷地に関する情報が記されています。学生たちは、課題文に従って、各種建築図面(配置図、平面図、立面図、断面図、パース:建築透視図)のほかに、設計趣旨(設計のテーマや工夫、設計において大切にしたことをまとめた文章)、建築模型などを提出します。
さて、「建築設計1」は、住宅の設計でしたね。大学のキャンパスに「ある家族が趣味を楽しめる部屋を必ず含む住宅」を設計する課題です。家族構成を考えて、それぞれの趣味を想定して部屋を作り、家を建てるわけです。

橋本:大学構内の川が流れ、緑がたくさんある自然豊かな環境を生かすこと、家族の趣味を具体的にいきいきと想像して家を設計することをまず心がけました。
また、今回の住宅設計では「趣味の部屋」がポイントだったので、それをどういう部屋にするかをまずは考えました。そして部屋の配置を考えようと、平面計画から始めました。初めての住宅課題だったので戸惑いつつも、参考になる事例として調べているうちに建築家・西口賢さんの自邸である「大地の家」に行き当たりました。
お庭の設計が素晴らしいと思いました。どこまでが庭で、どこまでが家なのか、どこまでが「内」でどこまでが「外」なのかがわからないくらい、周辺の自然と住宅が融けあっていました。内から外にシームレスにつながるようなグラデーションにとても心惹かれました。

岡北:確かに何かを設計するに際しては、まずはそれと関連する作品を手当たり次第に調べていくこと(事例研究)が大事ですよね。図書館に行ったり、実際に見学に行ったり。わたしも学生のころは、エル・クロッキーやa+u(どちらも海外の建築家の作品を主に扱う建築雑誌)を読みあさっていました。そんなわけで、製図室に建築雑誌を何種類か、古いものから最新のものまで揃えるようにしています。

橋本:「大地の家」に影響を受けて、お庭と家の中をどうつなげていくか考えました。そして、頭の中にあるイメージをどう図面化していけばよいのか、またイメージする空間を具現化するためにはどのような建築的な手法があり得るのかを考えました。そこでこの住宅ではハイサイドライト(壁の高いところにあけた窓)を取り入れました。

岡北:窓は建築の中と外を考えるための重要な要素ですね。建物の外観の特徴にもなりますし、風、光、視線など、いろいろなものが窓を通してやりとりされます。

図版7 図版8

人の動きや人の視線、また家を取り巻く緑の場所を考えながら、建物の外と中をうまくつなげるために試行錯誤しています。

岡北:さて、思ったよりもインタビューが長くなり、予定していた時間を過ぎてしまいました。残りは後編にいたしましょう。

後編に続く