2024年5月2日建築学科

学生の声(第4回)

新間 敬秀さん(2021年度卒業生)

 

歓談する新間さん

在学時に所属していた畠先生の研究室で、先生や後輩たちと歓談する新間さん。卒業後の活動を報告されていました。写真左手の黒い帽子を被っているのが新間さんです。

 

Q1. 本学(当時はデザイン工学科)を受験したきっかけを教えてください。もともと建築志望でしたか?

志望した1番の理由は1年生の時にプロダクトと建築デザインを学べる学科だったことです。多くのものづくりに触れることができ、やりがいがありそうだと思いました。そもそもはプロダクトに興味がありましたが、2年生になって建築領域へと進んだきっかけは、建築分野の科目の成績がよかったことと、先生との面談の中で、「建築の道に進めばプロダクトも必然的にすることになるよ」と言われたことも大きかったです。
あとは、他大学の推薦入試を受けたのですが、それがうまくいかなかったこともあります(笑)。地元が神戸なので、岡山は地元から比較的近いけれど、少し距離があるというほどほどの距離感が気に入りました。オープンキャンパスで大学を初めて訪れた時から、自然にあふれたのんびりした環境はとてもいいなと思ってました。

 

Q2. 入学してみてどうでしたか?

入学前に抱いていたイメージとは、良くも悪くもギャップはありませんでした。けれど、1ヶ月、2か月過ごしてみると、工房が自由に使えることや、学外で実施するプロジェクトがたくさんあったりなど、自分から動けばいろんな経験ができることを実感しました。辺鄙な場所(笑)の大学ではあるけれど、大学さえあれば、友人との交流や大学の課題、学外活動を通じてめちゃくちゃ充実した生活が送れます。子どものころに、特別ななにかがあるわけではない公園や空き地で楽しく遊んでいた感覚に近いかもしれません。

 

Q3. 在学中の印象的なエピソードを教えてください。

受賞者写真

ワンデーエクササイズでの最優秀賞受賞記念の写真

ワンデーエクササイズ(岡山県内の建築学生が参加する建築デザインのコンクール)はとても記憶に残っています。当時は4年生で、就職活動を終えて、コンペに取り組みたいという思いと、ちょうどコロナ禍で、後輩たちを含めて学内で学生同士のコミュニティを充実させたい気持ちが強かったです。1年生から4年生まで10人ほどで構成されるチームを作って、2か月ほどをかけて計画案をみんなで制作しました。チームでコミュニケーションをとりながら進めたことがすごく楽しかったですし、結果として最優秀賞を取れたのも最高でした。学外でも建築勉強に取り組みたいという人はぜひ毎年チャレンジしてほしいですね。

 

ダンスをする姿

ダンス!!新間さんは写真右手です。いまでも続けているとのこと。

それと、課外活動でいうと、ダンス部に1年生から所属して、毎週練習してステージに立っていました。卒業後も練習やイベントに参加しています。
1番充実していた時期の週末の過ごし方は、「午前中にパン屋でアルバイト→午後から研究室で卒業研究→夕方に居酒屋でアルバイト→夜中にダンスのイベントに参加して友達と遊ぶ」と朝から夜中まで予定を詰め込んでいました(笑)。この時期が一番「大学生してる!!」という実感がありました。建築での制作課題は多く大変で、課題にかける時間はキリがないので、勉強とダンスそしてバイトの両立(三立?)は、やりきると大きな達成感をえられました。こうした活動の中でできた人と人のつながりは、今でも大きな財産になっています。

 

Q4. 在学中の面白かった授業や課題

課題の作品スケッチ

美術館課題の作品のスケッチ。色遣いやタッチが新間さんらしいです。

2年生の時には建築設計演習も手応えがなくて、何から手をつけたらいいのか、どうやって進めていけばいいのか、よく悩んでいました。3年生になって課題の意図やプログラムを理解して設計することができるようになって、設計のプロセスが腑に落ちるようになって、すごく面白くなりました。
美術館の課題にはかなり力を入れました。この作品を「建築新人戦」(大阪で開催される全国公募コンテストで、大学で実際に取り組んだ設計課題作品を対象に審査する)に応募したくて、頑張りました。設計の中身だけではなくて、プレゼンテーションの見せ方、課題に対する答えの出し方など、戦略的にいろいろと勉強して取り組みました。その時に、1年生から3年生まで受けてきたさまざまな授業がアイデアのきっかけになったり、役立ったりしました。この時の課題には大学で学んできたことを組み込んで考えることができた感触がありました。

 

Q5. 学外活動はどんな感じでしたか?

フライヤー

フライヤーのデザインいろいろ。なかなかかっこいいですね。

ダンス部のイベントのフライヤー・ポスターの制作をすることで、建築とは違うデザインの経験を積むことができました。Adobe(デザインの世界で標準となっているデザインアプリ)の使い方を実践で学べたので、いまの仕事にもとても役に立っています。いまでもたまに県大のイベントのフライヤー・ポスターを制作していたりしています。

 

Q6. 卒業研究(4年生の生活)を振り返っていかがですか?

岡山市表町商店街

岡山市表町商店街での空き地活用の1コマ。木材を使って屋台やベンチなどを作って、小さな空間を活用できるようにいろいろな工夫が見えますね。

4年生の時はコロナ禍であったことに加えて、1年生から3年生までで、卒業に必要な単位はすべて取得していたので、「卒業研究しかない」という状況でした。でも、卒業研究だけに集中している状況には閉塞感を感じたので、表町商店街の空き家を活用するプロジェクトを実際にやってみました。興味・関心を持ってくれる人がいて、これまでの建築の設計演習とは違って、「実際」の計画だったので、やりがいがとてもありました。現場で考えて、現場で動いて、そこで本当に必要なものが何かを考えることで、具体的な提案ができるようになりました。とはいうものの、振り返って考えてみれば、学生だから受け入れてもらえたプロジェクトだったなと思います。学生だからできることがあるということにも気づきました。これを卒業研究に広げていきました。卒業に必要な単位は取得していましたが、大学の授業もさらにいくつか履修して、4年生の時間をできる限り有効に使おうと思って動いていました。

 

Q7. 卒業後の進路についてはいつ頃から考え始めましたか?またどんなことを考えていましたか?

3年生の夏にELDインテリアプロダクツにインターンシップに行きました。いくつか他の会社にも会社体験のようなイベントに足を運びました。建築の仕事をしたいと思うなかで、ずっと机で仕事をする(図面と向き合う)よりは、営業と一体になったような人と向き合う仕事(コミュニケーションをとる)をしたいと思いました。だから、ハウスメーカーの営業職(注文主と打ち合わせしながら大まかな設計もする仕事)も考えたりしました。設計だけを専門とする職を選ぶか、施工にも携われる設計職に就くかも悩んでいました。インターンシップで現場見学をしたときに、実際に建築が立ち上がっていくところを見たのがきっかけで、やはり施工にも携われる仕事がいいと思い、ELDに決めました。ここだと家具デザインができるのもポイントでした。
インターンは、志望している会社を見るだけでなく、大学では学べない建築業界の役割や仕事の流れを学ぶことができて、社会人0学期の気分でした。

 

Q8. 卒業後の仕事について教えてください。

ELDに就職して1年は、コワーキングスペース、自社の倉庫、ガソリンスタンドの待合室、病院の病室などの設計をしていました。大学の課題では見えなかった設備の設計、構造の図面を読み解いたり、自分で実際に書いたりしていました。最初は難しくて大変でした。イメージをいったんスケッチで描いて、ディテールとか、照明とか、どうやったらカッコよくて、安くて手間なく実現できるかを考えるのが面白かったです。こうした部分はもちろん建築設計には欠かせないのですが、一般の人はあまり気が付かないかもしれない細かい部分でもあります。それを徹底的に考えていました。

工事中の現場

工事中の現場の写真です。現場を経験することで設計力がすごくついたと新間さんは言います。

2年目になると現場監督を任せられるようになりました。設備の納まりとか、外には見えない壁の内側とかを知っていくことで、建築図面の見方が変わりました。この1年間は、現場半分・設計半分の仕事内容でしたが、現場を想像しながら図面を書けるようになったのはすごく大きな経験でした。現場を経ることで、設計力が上がったと実感しています。
仕事をしていくなかで思ったのは、相手(注文主)にデザインの中身とか意図を説明することの難しさです。相手のイメージと自分のイメージとのすり合わせの塩梅がものすごく難しい。また予算の問題も大きいです。お客さんの予算内で、デザイン面でもお金の面でも満足できるものを実現することの困難と、うまくいって注文主が喜んでくれたときの達成感は何事にも変えがたいと思いました。あるプロジェクトが完成して、お客さんに引き渡して数ヶ月後に、その方から新しい仕事の依頼があった時はうれしかったですね。

 

Q9. いま考えていること、今後の展開について教えてください。

改修計画中の図面

改修計画中の図面。完成したら皆さんにご紹介します。お楽しみに!!

2024年3月に丸2年間働いたELDを退職して、いまはフリーで活動しています。神戸市内にある実家の寺の改修を手がけています。竣工は2024年7月末を予定しています。そのあとは3、4年かけて、これまで見えていなかった建築の仕事の部分を実際に経験しながら、ゆくゆくは自分でゲストハウスや宿泊施設を設計して運営までしてみたいと思っています。人と関わる場所を作るのが目標で、今まで関わった人にそれを通じてお返しができればと思っています。

 

Q10. 岡山県立大学建築学科の魅力を教えてください。

魅力は、「縦の繋がりが強いこと」だと思います。建築学科ができてからは1年生から4年生まで、縦のつながりが強くなってきていると聞いています。また、先生方も積極的に学生に声をかけてくださるので、誤解を恐れずにいうと、「先生も頼れる先輩」みたいな感覚でした(笑)。僕の学生時代よりも、学外での研修や演習、研究室単位でのプロジェクトがたくさんあるとも聞いていて、より魅力的な建築学科になってきていると思います。

 

Q.11 高校生(県大の建築学科を受験しようと思っている人たち)へメッセージをお願いします。

皆さんへメッセージを2つ、送ります。
1つ目は、「建築は『デザイン』の中にあるもの」ということ。建築作品だけを見ても、設計力や建築としての表現力はなかなか伸びないと思います。時にはほかのデザイン領域からアイデアが生まれることもあります。建築の道に進むのであれば、建築だけに限らずプロダクトやビジュアルデザインなどさまざまなデザインを貪欲に吸収して欲しいですね。それが必ず建築設計にも活きてくると思います。
2つ目は、「建築学生である以前に、大学生である」ということです。大学は、建築を学ぶだけでなく、時間の使い方、お金の稼ぎ方、友達との関わり方を学べる場所だと思います。県大の環境や大学の部活、先生や先輩の雰囲気まで、オープンキャンパスなどで実際に感じてもらって、ぜひここを選んでもらえればと思います。

 

(インタビュー後記)

卒業して2年で、とてもたくましく成長されたのが生き生きと見えてくるインタビューでした。会社での多くの経験において、大学での活動がベースになっていたこともうかがえました。次の学生インタビューでは、新間さんの話にもよく出てきた「学外でのプロジェクト」に学生がどのように関わり成果を残しているのかを紹介する予定です。