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実社会に適応する半導体シリコン(Si)ウェーハでつなぐモノと人

 電子デバイスは、家電、コンピュータ、自動車、産業用ロボットなどあらゆる機器に幅広く使われています。その基盤材料(90%以上)として最も用いられているのが半導体シリコン(Si)ウェーハです。高純度の円柱状Siインゴットから厚さ1mm弱にスライス加工して製造される円盤状の半導体Siウェーハにおいて、その表面に電子回路を埋め込み、格子状にカットすることで半導体チップが製造され、これに金属端子や樹脂などのカバーを取り付けたものがIC(集積回路)チップです。
 
半導体シリコン(Si)ウェーハの原子結晶モデルと実物
 



半導体Siウェーハ(右)と原子構造モデル(左)
 
清浄な表面が必要なため、通常はクリーンルームでしか見せられないが、授業で学生に触れさせるために用意しているSiウェーハ。
 
 オンライン化が進む現代において、5Gなどの情報通信機器を支える電子デバイスのほぼすべてに半導体Siウェーハが用いられています。他にも、例えばデジタルカメラやスマホのカメラ機能において高画質を支えるイメージセンサも、半導体Siウェーハを用いて製造されています。このように、時代の要請に応じて高性能な電子デバイスを生み出すためには、半導体の微細化、三次元集積化とともに基盤となる半導体Siウェーハの大口径化と高品位化が必須であり、これは今後も社会の枠組みの中心となる分野の研究開発です。
 
 そこで、半導体シリコンSiウェーハの大口径化と高品位化の研究開発には、企業や他大学など半導体でつながる各方面の研究開発者との協働が必須、ということに着目して共同研究を進めている末岡教授にお話しを伺いました。
<INTERVEW>
 現在手掛けている研究は、電子デバイスの性能劣化をもたらす金属不純物の除去技術の開発、半導体Si結晶の高品位化を目的とした添加物技術の開発、半導体Si結晶成長における実験では観測できないサイズ(1mの1億分の1くらい)の空洞欠陥の成長過程の解明などを行っています。原子レベルの計算機シミュレーションを行っていますが、今年からさらなる大規模計算を実現するために、機械学習の専門家である名古屋大学の横井先生、金沢学院大学の野田先生とも協働して進めているところです。

 半導体材料にはSiの他にも青色LEDで注目されたガリウムナイトライド(GaN)やシリコン (Si) と炭素 (C)で構成されるシリコンカーバイド(SiC)などがあります。これらは電子デバイスの種類に応じて使い分けることになりますが、半導体Siは環境にやさしく、最も安価で、最も高品位化しやすく、最も電子デバイスとの相性がよい材料です。ちなみに、我が国の半導体Siウェーハの世界的シェアは約65%であり、すべての材料において我が国が最も強い材料です。私は前職の住友金属工業株式会社(現:日本製鉄)、三菱住友シリコン株式会社(現:株式会社SUMCO)からSiの研究を続けており、株式会社SUMCOは現在の共同研究先でもあります。

 今年度は、Si結晶に関する原子レベルの計算機シミュレーションとして、試行段階ですが、密度汎関数法(DFT)に準ずる精度と古典的分子動力学法(古典的MD)に準ずる計算コストを有した人工ニューラルネットワーク(ANN)ポテンシャルを作成し、機械学習システムの最適化を図っています。
 
研究室に設置されている計算機器
一台数百万円~と高額な機器。高温になるため室内の空調設備とは別に機器用のスポットクーラーが設置されています。
  計算機器
 

 応用物理学とは物理学と工学を結ぶ、すなわち物理学をいかに実社会へ適用するかを念頭においた学問です。末岡研究室では、半導体メーカの若手技術者が大学院生として常駐していたり、他大学やSiウェーハメーカなど企業との共同研究も行っています。基礎研究のみならず、その成果がいかに役立つかについて産学共同で議論して研究できる環境を整えることにより、学生はもとより社会人の若手技術者も教育しています。とくに学生には、研究開発とはどうものか、さらに企業とはどういうものか、といったことを在学中から体感して欲しいと思っています。
 
ゼミ生によるプレゼン 応用物理学研究室にかけられた書 研究室の様子 
 
<情報通信工学分野の専門家を目指すみなさんへ>
 研究テーマの決定が最重要です。それは面白いのか、それは新しいのか、それは何の役に立つのか、など先行研究と世の中の技術動向に注意して、よいテーマを見つけてください。あと、健全な研究活動には、こだわりとあきらめのバランスも重要です。どこまで進むか、どこで方向転換するか、判断が難しいですが、このあたりは教養を身に付けることを意識しておくと、バランスが取れてくると思います。真剣に遊ぶようなつもりで研究に取り組んでください。
  
(お問い合わせ)
 
末岡教授
 
■岡山県立大学情報工学部情報通信工学科
 応用物理学研究室  教授 末岡 浩治
   
  • 専門分野:応用物理学、半導体物性工学、材料工学
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  • 研究の概要:【次世代LSI用半導体基板の開発に関する研究】 2003年頃から第一原理計算などの分子シミュレーションを用い、(1)Si基板中の不純物ゲッタリング技術開発、(2)Si結晶育成中の熱応力や添加物が点欠陥挙動に与える影響、(3)パワーデバイス用Si基板中のライフタイム制御欠陥の挙動解明、(4)IV族混晶系の高品位化に関する基礎研究を行っている。
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  • 相談、共同研究可能なテーマ:
  • 1.第一原理計算による材料物性評価と新材料探索
  • 2.半導体材料の欠陥制御と高品位化
  • 教育研究者総覧から抜粋)